138087 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

正当防衛だと思ってやった。反省している。

   『正当防衛だと思ってやった。反省している。』


何度注意してもきかない、寺子屋に通う少年がいた。
幾回姿勢良くするよう勧告したか。それでもその少年は私を無視し続けた。
その生徒が花屋の娘をいじめている場面を、目撃した。
すぐさま割って入り、その少年を叱った。
するとどうだ。少年は私の注意に逆上し、支離滅裂な論理を立てて口答えしてきた。
ましてその少年は私を睨みつけ、今すぐにでも殴りかかってきそうであった。
さすがの私も、堪忍袋の尾が切れた。口でわからないなら、こうする他致し方あるまい。
私はすかさず少年の胸へ頭付きをしてやった。さすがに応えるだろう。
男子生徒はその場に転がって、咳き込み続ける。
当たり所が悪かったのか、少年は私と娘に侘びを入れることなく苦しそうにもがいていた。
泣かせてでも謝らせるつもりが、少年に怪我をさせてしまった。
そのとき、少年の友達と思われる数人の少年少女が少年を介抱。
彼らは、してやったという顔で私を笑った。

「慧音先生にこんな酷いことをされたって、言いふらしてやる」

彼らの誰かが、そう言った。
いつしか彼らは少年をひきつれて消えていった。
やりすぎてしまったのか。いきすぎた体罰だったか。
罪悪感から、胸が痛む。
花屋の娘が、私を呼んだ。

「慧音先生は、全然悪くないよ……」

私は、娘を撫でて安心させてやった。
しかし私自身が、娘の泣き顔から不安に襲われた。
それから。少年とその友達らの親と思われる里の人々が押し寄せた。
彼らは私を非難した。
やれ家の息子に怪我をさせるなんて、酷い先生だ。
やれ妖怪の類が教鞭を取るなんてやはり危険だ。
やれ自分の娘まで体罰と称して暴力を受けるんじゃないか。
彼らの主張は根も葉もない嘘だ。と思いたかった。
だが反論はしなかった。彼らの主張を受け入れた。
彼らの満足する方法で、わたしを罰してしまえば満足するだろう。
そう思って、耐えるしかないと思った。
里の自警団が私をしばしの間、軟禁すると言ってきた。
私に逆らう権利はない。自警団に言われるがまま、里のある小屋につれていかれた。
花屋の娘が、口を歪ませた泣き顔で言う。

「先生、どうなるの?」

少しの間、授業をお休みにするだけだ。そう言って、娘をあやした。
遠くに、例の少年とその友達らがいた。笑って、一部始終を見ていたようである。
私は罠に嵌められたと思っていいのだろうか。
それとも、私は本当に間違ったことをしたのか。行き過ぎた体罰をしたというのか。
寺子屋の教師として過ちを犯したのというのだろうか。
もし間違っているというのならば、なぜ花屋の娘は泣くのか。
なぜ他の生徒達も、わたしを見て目を潤ませるのか。

──覚えていろ。あの少年達をなかったことにしてやる。



後日談。

三日ほどして、私は釈放された。
その間に、あの少年達には消えてもらった。
寺子屋の門を開くと生徒たちが待っていたのか、一斉に飛び出してきた。
生徒たちの歓迎に、思わず顔が綻びる。やはり私は正しかったのだ。
さっそく授業を始めた。
あの少年とその友達らはもういない。いや、初めからいないことになってもらった。
この世に生まれていないことにしたのだ。彼らが生まれた歴史を食いつぶして。

授業を終えたあと、珍しく妹紅が来た。
私は三日前のことを話した。
不良な生徒のこと。体罰を与えたらその生徒が倒れたこと。
それは少年とその友達らが組んだ罠で、私を陥れようとしたことだということ。
三日間閉じ込められたこと。その間に、その少年らを消したこと。

「いくらなんでも、もっとやり方はあったんじゃない?」

妹紅は私のしたことの結果が気に入らないのか。あからさまな不快感を口にした。
それはつまり私がしたことは間違いであるということ。
事を知らない妹紅が、客観的に見て思ったこと。
私は何も言えなくなった。
それ以上妹紅があれこれ言うようなことはしなかったが、後ろめたい気持ちにまた苦しむ。
妹紅に謝りたい気持ちはあるが、そうしたところでどうにもならない。
だから私は、それ以上何も言えなくなった。

---------------------------------------------

当サークルでは気に入っていただけた作品への投票を受け付けています。
よろしかったらご協力ください。時々投票結果をチェックして悦に浸るためです。
   └→投票ページはこちら(タグ系が貼り付けられないため、外部ブログになります)


© Rakuten Group, Inc.